先日、作家の林真理子さんが最高の瞬間について話すのを聞いた。
「大人になってこんなに幸福な瞬間があるだろうか。この中でいずれ何人か死ぬだろう。そのお葬式の時、この時のことを思い出すだろう、と思って涙が出た。この日が最高だと、あの日確かに思った。あの高揚感が忘れられない。持続可能な幸福状態を目指すのもいいけど、瞬間的な幸福も悪くない。ブワッと上がって、次に来る不幸を考えながら自分を高めていくのは人生の真実なんじゃないかと思う」
その時の議題は、どうしたらいつも幸せでいられるか、というようなものだった。無駄を省いて、嫌なことを避ければいいという他の人の話を聞きながら、なんか機械みたいだなと思っていたところで、林さんがそう呟いた。私もその通りだと思った。そもそもすべてが無常な世界なんだから、幸せなんて長続きしなくていい。その瞬間をちゃんと味わえればいい。
ミスチルの「ロードムービー」という曲の歌詞に「街灯が2秒後の未来を照らし オートバイが走る 等間隔で置かれた闇を越える快楽に またスピードを上げて もう一つ次の未来へ」というのがある。林さんの言葉を聞いてやっとその真意を噛みしめられた気がする。
私は、自転車での帰り道に、夕日とススキを見ながら坂道を下っていると、稲刈り間近の黄色い田んぼが風に揺れているのが奥に見えて、いいなぁと思う。祖父が「あいみよん」(本当はあいみょん)の曲を合唱のコンサートで歌うから、と練習している姿を見て、愛しいなぁと思う。そういう時、幸せを感じる。それらは、今この瞬間しか味わえないということを本能的に感じていたからなのだと思った。
