夏について 𓇢
わたしは夏が好きだということに大人になってから気付いた。
それは、子供の頃は他の季節が好きだったということではない。
わたしの生まれは海のすぐそばで(歩いて3分くらい)、海水浴も、浜辺でする花火も、日焼けでこんがりと焼けた肌も、門限が少しだけ遅くなる近所のお祭りの夜も、夏になれば毎年当たり前の様にそこにあるものだった。
だけど、大人になってからはちがう。
海はそもそもそんな近くにはないし、花火大会は事前に調べないといけない。その辺の公園でする手持ち花火なんか御法度なのだ。
つまり、大人になってからの夏というのは自分から意識して参加しないと猛暑日が続くただの日常となる。
それでもわたしはとくべつ夏が好きだと思う。
梅雨が明けて街がそわそわし始める夏の始まりも、こんがり焼けた肌の子供達とすれ違うのも、電車の中の浴衣姿の人たちが教えてくれる遠いどこかの花火大会も、イントロだけで夏を感じられるあの曲も、いつかのあのひとと行った夏祭りの微かな思い出も、夏の終わりのあの香りも。
そういう小さな夏が集まってわたしの夏は出来上がっているんだろう。
そんな夏が今年も終わりに近づいていく。
まだ終わってもないのに寂しく感じるこの感情こそが夏の風物詩であるとも言える。
夏の静かな夜に ☽☽
