記憶や言葉、物の存在が日に日に消滅していくその島で


失うばかりの小説家の主人公と

特殊能力的に失わないとされる編集者R氏


「心の中のものを何一つなくさないでいるというのは、どういう気分がするものなのかしら」


「心がぎゅうぎゅう詰めになって窮屈になったりしないかしら」


「いいや、そんな心配はないよ。心には輪郭もないし、行き止まりもない。だからどんな形のものだって受け入れることができるし、どこまでも深く降りてゆくことができるんだ。記憶だって同じさ。」


「今まで島から消えていったものたちが、あなたの中には全部完全に残っているんですね」


「完全といえるかどうかは分からない。記憶はただ増えるだけじゃなくて、時間をかけなかまら移り変わってゆくからね。 時には消えてゆくものだってある。でもそれは、君たちの身に降りかかってくる消滅とは根本的に違う種類のものだけど」


「どういうふうに違うのですか」


「僕の記憶は根こそぎ引き抜かれるということはない。姿を消したように見えても、どこかに余韻が残っているんだ。小さな種のようなものだ。何かの拍子にそこへ雨が吹き込むと、また双葉が出てくる。それにたとえ記憶がなくなっても、心が何かをとどめている場合もある。震えや痛みや喜びや涙をね」


彼は慎重に言葉を選んで話した。


考えついた言葉を、一つ一つ舌の上で感触を確かめてから口にしているような喋り方だった。


「あなたの心を両手にのせて眺めることができたらどんなだろうって、時々想像するんです」


わたしは言った。


#密やかな結晶

#小川洋子

#小説

Rain or shine, I discover your potential
✌︎Japan✌︎1997 🌊🌊🌊 🇯🇵

このブロガーの新着記事

オフィシャルブロガーの新着記事

沖縄旅行⑤

Risa Yoshida/吉田理紗

2019年05月22日

沖縄旅行④

Risa Yoshida/吉田理紗

2019年05月22日

雨、はたらき、風邪気味

アサノ

2019年05月21日

サプライズ

Sara

2019年05月21日

雨、パジャマ、買ったもの

かやの

2019年05月21日

gelato pique🍒

Mai

2019年05月21日

5/21 ワンプレランチ

コウタ & *Ryo*

2019年05月21日

すべての新着記事